少し古い本ですが、「グーグルに勝つ広告モデル マスメディアは必要か」をブックオフで見つけて面白そうだったから買ってみたので、重要だと感じた部分を少し。
広告を経済学的に分析している当たりが面白く、今後の広告業界の方向性への示唆にとても納得性が高かったです。
グーグルに勝つ広告モデル マスメディアは必要か
目次
はじめに
1章 マスメディアの本質は「注目=アテンション」の卸売業
2章 アテンションのゼロサムゲームから脱却できるか?
3章 マスメディアの競合としてのインターネットメディア分析
4章 4マスメディアVS.インターネット
5章 テレビVS.インターネット
6章 オンデマンドポイントキャスト事業の提言
7章 ターゲットメディアとしてのラジオの確立
8章 情報のコモディティ商戦から新聞は抜け出せるか
9章 ネットとの差別化に特化する雑誌
10章 合従連衝によってプレイヤーの数を減らす
11章 なぜ、それでもマスメディアは必要なのか
12章 コンテンツ論
13章 マーケッターに求められるパラダイムシフト
ヤフーとグーグルの違い
- 20世紀はアテンション・エコノミー
- AIDMAのA
- ポータルサイトを運営して、トップページにたくさんの広告を貼っているヤフーはそういった意味で20世紀の企業
- ポータルサイトのトップページはたくさんのアテンションが集まるので
- 一方、グーグルはトップページには広告を掲載していない(している時もあるが)
- 検索というユーザーの能動的な興味に対して広告をうっている
- グーグルはAIDMAのI、つまり、インタレストを販売している
※AIDMAとは
消費者の購買プロセスのフレームワーク
アテンション=>インタレスト=>デザイア=>メモリ=>アクション
アテンションの減少
- 市場で獲得できるアテンションの総量は年々減少する
- 一人当たりアテンション量が一定で、人口が減少傾向にあるため
- 減少するアテンションをメディアは争うことになる
- また、コンテンツ産業は「過去のストックが競合になる」ため、年々厳しい戦いが強いられることになる
過去のストックが競合になる
- 例えば、リアルタイムで放送されているテレビは、過去のコンテンツであるDVDなどにアテンションが奪われてしまう
- そういった過去のコンテンツは、新規コンテンツが生産されるたびにストックされていき、個人的な忘却を検討したとしてもいずれ無限大まで増加する
- つまり、現在のコンテンツが過去のどの地点よりも厳しいアテンション競争を求められる
- そして、不幸なことに、このジレンマから抜け出す方法はない
デジタル化による過去のコンテンツ資産の実質価値の上昇
- これまで、過去のストックは現在の競合とな成り得なかった
- というのも、量があまりにも膨大すぎて検索コストが高く、現在のコンテンツを嗜好されることが多かったため
- デジタル化とグーグルの台頭により状況が一変
- 検索コストが大幅に減少することで、過去のストックが競合に
- これにより、モノと情報が分離して扱えるようになった
- グーグルが使われるのは、この検索コストがあまりにも膨大で、整理することに現代人が付加価値を置いたため
アテンションのゼロサムゲーム
- アテンションの総量が増えない
- アテンションを奪い合う競合が増えている
つまり、ゼロサムゲームになっている市場
※ゼロサムゲームとは
プレイヤー全員の損得の合計がゼロになるゲーム
つまり、誰かが得をすれば、誰かが損をするゲーム
余談:ゼロサムゲームから脱却した織田信長
- 日本の農耕可能な面積は限られている
- この状況下では、全てのプレイヤーが満足することはない
- 上記が理由で、部下への褒美として、領土を与えるという動機付けは必ず破綻するシステムである
同様のことが、企業にも言える
- 給与の問題や年金の問題がそれに当たる
ゼロサムゲームから脱却には二つの方法がある
- ゼロサムのサムの総量を増やすこと
- 秀吉の朝鮮出兵や江戸幕府の新田開発がこれに当たる
- ルールを変える
- 信長は、領土が褒美になるというルールを、茶器がもらえるというルールに変えた
茶器の価値は、無限大で、サムが無限大になることを意味し、ゼロサムゲームから脱却を果たしたのである
理性的なメディアと情緒的なメディア
- 理性的なメディア
- 図像や文字を中心としたメディア
- 新聞や雑誌などがこれに当たる
- 情緒的なメディア
- 動画などを中心としたメディア
- テレビがこれに当たる
産業が成長期を経て成熟期に達すると、商品の特性上の違いがあまり無くなってくるため、物理的な性能や数値よりも「情緒的な価値」が重要になってくる
- 日本の消費財分野の多くは成熟期を迎えているため、情緒的なメディアによってプロモーションを行っていくことが重要
ターゲティング×情緒的メディア
- インターネットがこれに当たる
- つまり、これまで、情緒的メディアはマスに対してのみ供給できるメディアであったものがインターネットの台頭により、ターゲティングが可能になったのである
インターネットは全てのメディアを飲み込むのか?
本書では飲み込まれないためのアイディアを幾つか紹介している
主な方向性を記しておく。
- アテンションの総量が決まっている
- アテンションを奪い合う競合が増えている
- メディアが生き残っていく道は、アテンション単価を上げること
- つまり、ターゲティングを行うことにより、アテンションの価値を上昇させるのである
- アテンション一単位あたりの価格を上昇させれば、アテンション×価格のサムは上昇し、ゼロサムゲームからの脱却を果たす
テレビの広告料金は高いのか?
テレビ広告費というモノは、非常に高いイメージがある
しかし、本当にそうであろうか?
- 実際のテレビ広告の到達価格は1円以下である
- リーチがあまりに広く、絶対値として、広告料金が高く見えてしまっているという現実がある
最後に:本書を読んで
- アテンション価値の向上は、全てのメディアの課題となっていく
- インターネットの世界だとメディアのeCPM向上という事になろう
- オーディエンスのデータを収集し、うまく活用することで、アクション率を高め結果としてアテンション価値を高める
- グーグルの一つのアプローチとしては、アテンション=>インタレストのインタレストにのみ広告をうち、価値を向上させている
では、代理店はどのようなことが求められるのだろうか?
- 価値の高いアテンション(imp)をいかに仕入れられるかが勝負となってくる
- いかに大量のimp在庫を持っていたとしても、価値のないモノであればさばけない
- 広告主に、価値のないimpを提供すれば、結果としてCPAが下がり、ROIをバランスするために広告費を下げ、eCPMがさがり、、、となっていくだろう
- また、ターゲティングできる技術が求められ、開発に乗り遅れると、気づけば大量のimp在庫を抱えて乗り遅れたメディアと共に消滅する可能性が高い
と、謎に危機感を煽ってみましたが、遅かれ早かれ、このような時代は来ます(もう来ているかも知れませんが)
その時に、広告業界として、メディアと広告主と代理店が共存できるように、メディア価値を高めつつ、広告主の広告効果も高められるようにできるといいなと思いました。
最後までお読みいただきありがとうございました。